オーストラリア、クイーンズランド州のブリスベンにある3つの小学校で3〜6年生に日本語を教えています。今年の4月に、学年の1学期が終わろうとしている頃に、2学期の前半(5週間)はリモート・ラーニングになることが決定されました。家から仕事ができず、外に仕事に通う為、家で子どもの面倒を見る人がいない家庭の子どものみが学校に通い、それ以外の子どもは家から学ぶ体制でした。COVID−19の状況が悪化すればリモート・ラーニングの期間が延びるとのことでしたが、ありがたいことにクイーンズランド州では6週目から基本的に普通の学校での授業に戻りました。
2学期前半のリモート・ラーニングは突然決定されたので、政府から指令があった翌日から児童はできる限り学校に通えなくなりました。先生は早速オンラインの授業を準備しましたが、最初の1、2週間はとにかく児童にオンライン授業に慣れさせることから始まりました。
当時は大変でしたが、今振り返ってみると、先生にとっても、児童にとってもいいこともいろいろありました。
私の学校では家からリモート・ラーニングをしていた児童のために生の授業は行いませんでした。週の初めに一週間分の授業内容をマイクロソフトチームズ (Microsoft Teams)を通して児童に知らせ、基本的に金曜日までに勉強したことを何らかの形で提出してもらうようにしていました。毎日、児童と連絡も取り、児童からの質問などに対応しました。水曜日になって、その週の勉強内容をまだ確認していない児童がいると一人一人と連絡を取り、様子を伺いました。普通の教室での授業だと、児童の目をサッと見て積極的に授業に参加しているかいないかが大体判断できますが、リモート・ラーニングになるとそう簡単には確認ができません。教室での授業ですと、例えば積極的じゃないにしても授業の80〜90%は日本語で行なっているので少なくとも日本語は耳に入っていきます。しかし、家から勉強していると、児童が取り組もうとしない場合は先生がどんなに工夫をしてもそのリモート・ラーニングの期間中は日本語に全く触れないこともありえます。これが私にとって一番気にかかっていたことでした。どのようにして児童の興味を惹き、日本語と接してもらえるかが私の最も重大な課題となりました。
学校での授業の場合、私の仕事の75%は授業の準備と授業を実際に教えることです。残りの25%は児童のアセスメントになります。リモート・ラーニングの期間中は真逆でした。この二点が最も困ったことでした。
しかし、良かった点もいくつかありました。一番大きかった点は児童の保護者と繋がったことです。多くの保護者は子どもと一緒になって日本語を勉強しました。レッスン内容は自分で録画したビデオレッスンが多かったため、顔が知られて、学校に戻ってからは保護者からよく声を掛けられます。なお、児童にとってリモート・ラーニングは両親や兄弟と一緒に日本語を勉強する機会となったことはプラスでした。日本語が全く初めての両親や兄弟のために児童が「せんせい」となり、楽しく一緒に勉強している様子の動画をいくつも見せてもらいました。これからも児童が家族を含めてできるようなアクティビティーをカリキュラムに導入して行きたいと思います。
もう一つ良かったことは、オンラインでの授業だと内容をいろいろと工夫をする必要がありました。どの先生も子どもの興味をそそらせる内容にしたくて必死でした。児童の間で人気だった内容のレッスンは今後、リモート・ラーニングでなくてもレッスン計画に取り入れ続けるつもりです。
特に人気だったタスクは次のような内容でした。
1)児童に名前を身の回りのもので書くタスク
2)日本の物がいっぱい入っている絵でその物の名前を調べるタスク
3)日本語でお絵描きのタスク
4)日本語で折り紙のタスク
5)日本語の早口言葉
2学期後半から児童が学校に戻ってもどうしても気持ちは不安定でした。
3学期からはもう少し落ち着いていますが、オーストラリアのビクトリア州では再びCOVID-19の感染者が増え、2回目のロックダウンになりました。クィーンズランド州もそのようになるのではないかと心配していました。幸いにも今のところ安定していて、学校はほぼ普通に進められています。しかしこれがいつまで続くかは保証がありません。2020年は予想できなかった展開となりましたが、人間の柔軟性がよく試され、いろいろな業界もそうですが、教育業界も厳しい状況の中、素晴らしく対応ができたと思います。教師の私も児童も今年の経験を生かして、これからはより充実した授業ができれば嬉しいです。